2009年8月3日月曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

4 損害額
 上記1認定のとおり,被告は,平成18年3月31日をもって原告を退社後,同年4月1日から同月24日までの間(営業日合計17日)に38万7500円を売り上げていたから,その売上げは1日当たり約2万2800円であったものと認められるところ,原告の1か月当たりの営業日を22日として計算すると,原告の1か月当たりの売上げ減少額は50万1600円程度であったものと認められ,これから原告における経費等を差し引いた額が損害額となるが,原告における粗利益率は必ずしも明らかでない。
 そして,理美容業においては,理美容を担当した者に顧客が付くという性格を有している面もあって,原告の売上げ減少分の中には,被告が退社したこと自体によって必然的に伴う減少分も含まれていることが明らかであり,また,被告が退職後の勤務場所を顧客に知らせ,その顧客の意向によって,当該従業員の次の勤務先で理美容を受けるようになることも一定の限度で是認されるべきであり,被告は,リプル店を介することなく,直接,顧客とメールで連絡し合っていたことが窺われるから,上記売上げ減少分をそのまま原告の損害と認めることはできない。そして,その損害が原告が主張するように1年間にわたって生じていたと認めるに足りる証拠はなく,上記1認定の原告作成に係る売上表(〈証拠略〉)によっても,被告の上記行為によってリプル店の売上げが減少したと認められるのは3か月程度と思われるのである。
 本件において,被告の上記不法行為と相当因果関係のある損害の範囲を確定するのは極めて困難な問題であるが,上記1認定の被告の勤務歴,原告における地位,リプル店の開店に至る経緯,その売上げの推移等,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,1か月当たり10万円の損害と見て,その3か月分に当たる30万円をもって上記因果関係のある損害と認めるのが相当である。
 そして,本件事案の性質,審理の経過,認容額等,本件に顕れた諸事情からすると,相当因果関係のある損害として原告が被告に請求し得る弁護士費用は5万円と認めるのが相当である。
5 昇給合意の有無
 被告は,平成16年2月ころ,同年4月以降の基本給が減額された際,原告との間で,同17年4月以降の基本給を43万4000円に戻す旨の昇給合意がされた旨主張し,被告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分がある。
 これに対し,原告は,これを否認しており,上記合意があったことを窺わせる合意書等の書面が作成された形跡はない。
 この点につき,甲野は,原告代表者本人尋問において,被告に対し,「1年くらいたてばリプル店の売上げが300万円になるだろうから,そうなれば元に戻す。」旨言ったと供述しているところからすると,被告が,1年程度すれば元の基本給に戻してもらえるものと期待したのも無理からぬところではあるが,そうだとしても,同16年2月ころ,被告と原告との間で同17年4月以降の基本給を43万4000円に戻す旨の合意が成立していたとまでは認め難く,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 よって,被告の反訴請求中,上記合意が成立していたことを前提とする未払給与請求は理由がない。
6 時間外給与の支払請求の可否
 上記1認定のとおり,被告は,原告のリプル店で勤務中,原則として午前10時から午後8時まで就業していたところ,被告は,1か月当たり37時間30分(1日当たり1時間30分)の時間外労働(残業)に従事し,また,少なくとも平成16年11月以降,毎月2回,原則として水曜日の夜,午後9時から最低でも2時間に及ぶ店長会議に出席していたとして,合計173万8709円の時間外給与の支払を求めている。
 しかしながら,理美容業は特殊技能を要する職業であって,リプル店のような理美容店においては,その勤務態様も,顧客がいない場合,従業員は,その時間を多少の準備作業や若年者の練習に費やすことがあると思われるが,実質的には休憩時間となることも少なくないものと思われるれるのであって,特段の事情がない限り,リプル店のような理美容業に従事する従業員の給与には多少の勤務時間の増加があったとしても,それは勤務時間に含まれているものと認められる。
 そして,上記1認定のとおり,被告は,原告の総店長であって,証拠(〈証拠略〉,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は1日当たり1ないし2時間程度の時間外労働(残業)をしていたこと,被告の基本給は,平成16年2月当時が43万4000円,同年4月当時が39万0600円であり,これは他の従業員の約1.5倍程度に当たること,被告は,原告から,上記給与のほかに店長手当として3万円が支給されていたことが認められるから,上記事情の下,原告が被告に上記基本給に加えて時間外手当(残業代)を支払っていなかったとしても,これを不当とする特段の事情があったとまで認めることはできない。
 よって,被告の反訴請求中,時間外給与の支払請求も理由がない。
7 本訴状が被告に送達された日の翌日が平成18年8月7日であることは本件記録上明らかである。

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