2009年7月3日金曜日

サービス残業代(残業代請求)

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

2 顧客カードと営業秘密性について
 上記1認定のとおり,被告は,平成18年3月下旬ころ,リプル店に保管されていた顧客カードを持ち出したことが認められるところ,原告は,この持出し行為は不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正競争防止法2条1項4号,不正取得行為)に当たる旨主張するので検討する。
 不正競争防止法上,上記の営業秘密として保護されるためには,その情報が〔1〕秘密として管理されていること(秘密管理性),〔2〕事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性),〔3〕公然と知られていないこと(非公知性)を要するところ,顧客カードが,理美容業上,その事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であることは明らかであり,また,上記1認定の顧客カードの記載内容等からすると,そこに記載された情報は原告の管理している範囲外では一般的に入手できない状態にあったものと認められるから,上記の有用性及び非公知性を肯認することができる。
 しかし,上記1認定の顧客カードの管理状況について見ると,リプル店において,顧客カードは,リプル店の顧客が自由にこれを見ることができるような状態に置かれてはいなかったものの,単に輸ゴムで束ねられ,カウンターの下の三段ボックスや顧客の荷物置場に保管されていたにすぎず,これに秘密とする旨の格別の表記等もされず,被告が顧客カードを持ち出した当時,これが施錠できる場所に保管されていたわけではなく,また,パソコンに入力されていた顧客情報についても,パスワードの設定がされておらず,従業員が自由に顧客情報にアクセスすることができる状態に置かれていたものと認められるのである。
 そうすると,顧客カードは,秘密に管理され,情報の漏洩防止のための客観的な管理下に置かれていたとは認め難いから,顧客カードにつき,上記の秘密管理性を認めることはできない。
3 顧客カードの持出し行為及び競業行為について
(1)顧客カードの持出し行為
 上記2のとおり,顧客カードは「営業秘密」に当たらないから,被告が顧客カードを持ち出した行為を不正競争防止法2条1項4号の「不正競争」と認めることはできないが,その有用性及び非公知性は肯認されるのであって,たとえ従業員であってもこれを原告の承諾なく持ち出して,リプル店の営業活動以外の目的で使用するのは,不法行為に当たるというべきである。
 この点,被告は,顧客カードを持ち出すに当たっては,リプル店のBから了解を得ていた旨主張し,被告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分がある。しかし,上記1認定のとおり,B及びリプル店の他の従業員は,リプル店において,被告の下でその営業に従事していたものと認められ,原告代表者の甲野に代わって,顧客カードの持出を承諾するといった権限を有していたなどとは考え難いというべきであって,他に被告の上記持出し行為につき,原告がこれを承諾していたものと認めるに足りる証拠もない。
 被告の上記主張は理由がない。
(2)競業行為
 上記2認定のとおり,被告は,平成18年3月31日,原告を退社すると,翌日以降,リプル店から約250メートル程離れたピノキオ店に勤務するようになり,リプル店において被告が担当していた顧客を主な顧客として理美容業に従事し,相応の売上げを得ていたものと認められる。
 なるほど,被告のように自らの技術等によって理美容業務に従事する者の性格からすると,退職後,その能力や経験を活かして生計を立てていくしかなく,過度の競業避止義務を課するのは職業選択の自由の観点からも問題であるから,従前勤務していた店舗を退職後その近くの店舗で稼働することについても,原則としてこれが法的に禁じられる理由はない。
 しかしながら,事業者にとって,その顧客が退職者と共に流出し,その競業行為に利用されることが無条件に許容される謂われはなく,従業員は,就業規則や内規等に定めがなくても,雇用契約に付随する義務として競業避止義務を負う場合があるというべきであって,元従業員の地位、待遇,競業に係る当該行為が事業者に及ぼす影響,行為態様,計画性等を総合考慮して,それが社会通念上不相当と認められるときは,競業避止義務違反として不法行為を構成するというべきである。
 これを本件についてみると,被告は,長年にわたって理美容業に従事してきた者であり,リプル店において,総店長として,原告の理美容業に従事していたところ,原告を退職するに当たり,予めリプル店の顧客に平成18年4月以降の日をピノキオ店において理美容を行う日として予約を受け,これをリプル店のカレンダーに記載し,また,顧客カードを原告に無断で持ち出し,短期間ではあるものの,これをピノキオ店においても利用していたのである。被告の上記一連の行為は,被告が自らの生計を立てるための行為であったとはいえ,社会通念上相当でない行為であったというべきであるから,被告の上記行為は不法行為に当たる。 

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。