2009年4月28日火曜日

残業代の請求

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。


第3 争点に対する判断
1 本件における事実の経過
 上記当事者間に争いがない事実と証拠(〈証拠・人証略〉,原告代表者本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)甲野は,平成元年7月26日,美容室及び理髪店の経営を目的として原告を設立し,その代表取締役に就任した。原告経営の理美容店は,シーガル店を本店として,その店舗数を増やしていった。
 こうした中,原告の従業員数も多くなったため,甲野は,総店長を設けることとし,A某(A)を総店長に充てた。平成17年ころ,原告の経営する理美容店は,リプル店を含めて5店舗となっていた。
 被告(昭和39年○月○日生)は,かねて理美容業に従事していた者であり,同8年ころ,横浜市港北区〈以下略〉所在の理美容店に勤務していたが,同年4月1日,原告に入社した。当時の被告の基本給は32万5000円であった。
 被告には妻及び子二人がある。
(2)平成13年ころ,Aは,横浜市旭区〈以下略〉において,独立して理美容業に従事することになり,原告を退社した。
 甲野は,Aに代わって,被告を総店長に充てることとし,同年ころ以降,被告が原告の総店長となった。しかし,被告は,甲野から各店舖の改善策や従業員の配置等につき意見を聞かれることはあったものの,原告の経営に関わったり,人事権を与えられるといったことはなく,原告の人事等,その経営に係る事項については,専ら甲野の判断で決定されていた。
 原告においては,同16年11月以降,毎月,理美容業務を終えた後,各店舗の店長による店長会議を開くようになっていたが,被告も,理美容業務を終えた後,午後9時ころから開かれていた店長会議に出席していた。
 なお,同16年3月当時の被告の基本給は月額43万4000円であった。
(3)甲野は,リプル店の前身であるアンサー店の経営が思わしくなかったため,何人か店長を替えてみたものの,その営業成績が上がらなかったため,店舗を廃止することも考えたが,菊名駅に近く,その立地が良かったため,店舗をリニューアルして「リプル店」としてオープンすることとし,当時,イーズ店で勤務していた被告をリプル店に移すことを計画し,被告を説得してその了解を得た。
 こうして,平成17年,原告は,被告を総店長,同じくイーズ店に勤務していたB(昭和53年○月○日生)を店長とし,他に3名の従業員を入れて,上記店舗においてリプル店を開店した(同店は「菊名店」とも呼称されていた。)。原告は,リプル店の売上げが同18年10月には300万円に達することを目標としていた。
 リプル店の営業時間は,原則として,午前10時から午後8時までであったが,この間,顧客数に応じて繁閑があり,従業員は,顧客のない時間には適宜休憩を取ったり,経験に応じて練習をしたりするなどして,待機していた。
 原告の各店舗にはタイムカードが設置されていたが,出社時にはこれに打刻されていたものの,退社時に打刻されることはなかった。
 そして,リプル店において,従業員が,午後8時を過ぎて残業をしても,これに対して残業代が支払われることはなかった。
 被告は,原則として午前10時に出勤し,午後8時に退社していたが,原則として毎週月曜日が定休日であり,月に一度は連休があった。また,被告は,同16年11月以降,理美容業務を終えた後,午後9時ころから開かれていた店長会議に出席していた(この店長会議は長いときには2時間に及ぶこともあった。)。
(4)原告は,平成5年ころまでには,各店舗において,願客の了解を得て顧客カードを作成することととし,従業員が作成した顧客カードについては,適宜,各店舗においてその管理を行うようになった。
 顧客カードの表面には,顧客が自らその氏名,住所,電話番号,メールアドレス,職業,出身地を記載する欄や毛質(自然毛の色,太さ,硬さ,弾力性,乾燥性),かぶれ及び体質について記載する欄があり,その裏面には,顧客の来店日,整髪等の内容,育毛剤使用の有無,料金,担当者等の顧客に関する情報が記載されていた(リプル店においては,顧客カード表面の毛質,かぶれ及び体質欄の記載がされることは少なく,裏面に,来店日,整髪等の内容や顧客との会話において特記すべき事柄などが多く記載されていた。)。この顧客カードの中には,「ヘア&スキャルプチェックシート」が付されているものもあり,これには「毛髪について」,「頭皮について」,「生活環境」の欄があり,毛髪について,「パサつく。」「くせ毛が気になる。」「ダメージがかなり気になる。」,「ボリュームが欲しい。」「根本から細くなっている。」等の項目が,頭皮について,「フケが気になる。」「抜け毛が気になる。」,「脂っぽい。」,「かゆみがある。」,「赤みや傷がある。」,「敏感肌。」等の項目が,生活環境について,「ストレスがある。」,「不規則な生活または食生活の乱れがある。」,「日中は外に出ていることが多い。」等の項目があり,これに顧客がチェックを入れることとされていた。
 リプル店においては,担当者が,顧客に「作っていいですか。」,「差し支えないところを書いて下さい。」といった程度の説明をして,顧客カードの作成に当たっていたが,作成された顧客カードは,輪ゴムで束ねて,カウンターの下の組立式三段ボックスに置かれていた。
 顧客カードは,リプル店の顧客が自由にこれを見ることができるような状態には置かれていなかったものの,このファイルに秘密とする旨の格別の表記等はされておらず,従前,施錠できる場所に保管するといった措置も取られていなかった。また,リプル店においては,顧客情報をいわゆるパソコンに入力していたが,パスワードが設定されていたわけでもなく,従業員は,自由に顧客情報にアクセスすることができた。
 被告は,リプル店において,顧客から理美容の予約を取る際,顧客と自らの携帯電話でメールのやり取りをして予約等を入れることが多かった。

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。