2009年12月2日水曜日

顧問弁護士(法律顧問)によくある質問・・・休職

顧問弁護士(法律顧問)としてよく受ける問いについてまとめていきます。今回は、起訴休職についてです。

ある労働者について労務に従事させるのが不可能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその労働者に対し、労働契約関係は維持しながら労務への従事を免除しまたは禁止することを休職といいます。

そして、起訴休職というのは、起訴された従業員を就業させることによる企業の社会的信用の低下や企業活動の円滑な遂行への障害を防ぐためにとられる措置です。

この起訴休職について、全日本空輸事件(機長が傷害罪容疑で逮捕・起訴され無罪判決を受けた。会社は機長に対し、起訴を受けたことを理由に無給の休職に付していたという事案)において、東京地裁は、以下のように判断しました。

被告の就業規則三七条五号及び三九条二項は、従業員が起訴されたときは休職させる場合があり、賃金はその都度決定する旨を定めている。このような起訴休職制度の趣旨は,刑事事件で起訴された従業員をそのまま就業させると、職務内容又は公訴事実の内容によっては、職場秩序が乱されたり、企業の社会的信用が害され、また、当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずることを避けることにあると認められる。したがって、従業員が起訴された事実のみで、形式的に起訴休職の規定の適用が認められるものではなく、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、被告の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要するというべきである。
本件休職処分は、原告が引き続き就労することにより、被告の対外的信用の失墜、職場秩序維持に対する障害及び労務の継続的な給付についての障害を生ずるおそれがあると認められないにもかかわらずされたものとして、無効なものというべきである。
前記のとおり、被告が原告に対してした本件休職処分は無効というべきであるから、原告は、労務を提供していたのに、被告がその受領を拒否したため就労不能となったもので、民法五三六条二項により賃金請求権を失わない。

ご不明な点がありましたら、貴社の顧問弁護士(法律顧問)にお問い合わせください。

また、労働者の方で、法律問題でお悩みの方も、弁護士にご相談ください。



なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。

2009年11月10日火曜日

顧問弁護士(法律顧問)に多い質問・・・事業再生ADR

私的整理ガイドラインと事業再生ADRの手続をまとめます。

1.私的整理ガイドラインにおける私的整理手続の流れ


①事前相談私的整理ガイドラインによれば、債務者会社がメインバンクに私的整理の申し入れをすることによって手続がスタートする。ただ、多くの事案において、メインバンクが専門家にガイドライン手続による再建の可否を相談し、その後債務者会社の社長らを説得するという流れを経ている。
②一時停止の通知主要債権者と債務者会社の連名で、対象債権者(○億円以上、など少額債権者を除外することもある)に対して通知を発する。FAXで送信され、受信した対象債権者は、債権の取立てや保全の強化を一切停止する。
③第1回債権者会議一時停止の通知から2週間以内に開催される。第一回債権者会議では、一時停止の追認・延長が決議される。また、専門化アドバイザーが選任される。DIPファイナンス(対象債権より優先的に弁済)の供与・条件について決議されることもある。
④専門家アドバイザーによる調査報告財務DD、法務DDの報告書を作成し、対象債権者に配布し、説明会を行う。
⑤第2回債権者会議対象債権者全員によって再建計画案に同意するか否かの表明がされる。私的整理の成立には、対象債権者全員の同意が必要であるから、一行でも反対があると私的整理は不成立となり、民事再生、会社更生などの法的手続をとることが必要となる。


この手続きにおいては、専門家アドバイザーは、公正な判断をすることに重きを置き、債権者の説得や同意を促すための債権者の調整をしてこなかった。この点において、後述の事業再生ADRの手続実施者がADRの担い手として債権者調整を行うのと大きな違いがある。


2.事業再生ADRの特色


対象債権者を「金融機関債権者に限定」したり、「○億円以上の金融債権者」とするなど、債権者を選択・限定して申立てをすることができる。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)によれば、この紛争解決手続は、認証ADRが「紛争の当事者双方からの依頼を受けて」行うため、対象債権者が同意しなければ、手続を進めることはできない。

また、対象債権者全員の同意がなければ成立せず、法的手続(特定調停、民事再生、会社更生)の申立てに進むこととなる。


3.事業再生ADRの手続の流れ


①手続利用の申請債務者会社が事業再生ADRに手続利用を申請する(債権者の依頼は、債権者会議で確認する)
②一時停止の通知事業再生ADRは債務者会社との連名で、対象債権者に対して「一時停止の通知」を発する(私的整理ガイドラインと異なり、主要債権者の名は表に出ない)。これにより、債権回収、担保設定、法的手続の開始申立てが禁止される。この一時停止の通知があっても期限の利益喪失事由には該当しない。
③概要説明のための債権者会議2週間以内にこの債権者会議を開催せねばならない。ここでは、債務者が資産・負債の状況と事業再生計画の概要が説明され、また、対象債権者が事業再生ADRに紛争解決を依頼する意思があることも確認される。そして、手続実施者を選任し、一時停止期間を決定し、DIPファイナンス(既存債権より優先的に弁済)について決議される。
④計画案協議のための債権者会議私的整理ガイドラインにおける専門家アドバイザーによる調査報告書の説明会に該当するものである。手続実施者によって、事業再生計画案が公正・妥当で経済合理性を有するものであるかについて意見が述べられる。
⑤決議のための債権者会議事業再生計画案の決議は、対象債権者全員の書面による合意の意思表示によりなされる。

ご不明な点は、顧問弁護士にお尋ねください。


法律問題でお悩みの方も弁護士にご相談ください。



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2009年8月3日月曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

4 損害額
 上記1認定のとおり,被告は,平成18年3月31日をもって原告を退社後,同年4月1日から同月24日までの間(営業日合計17日)に38万7500円を売り上げていたから,その売上げは1日当たり約2万2800円であったものと認められるところ,原告の1か月当たりの営業日を22日として計算すると,原告の1か月当たりの売上げ減少額は50万1600円程度であったものと認められ,これから原告における経費等を差し引いた額が損害額となるが,原告における粗利益率は必ずしも明らかでない。
 そして,理美容業においては,理美容を担当した者に顧客が付くという性格を有している面もあって,原告の売上げ減少分の中には,被告が退社したこと自体によって必然的に伴う減少分も含まれていることが明らかであり,また,被告が退職後の勤務場所を顧客に知らせ,その顧客の意向によって,当該従業員の次の勤務先で理美容を受けるようになることも一定の限度で是認されるべきであり,被告は,リプル店を介することなく,直接,顧客とメールで連絡し合っていたことが窺われるから,上記売上げ減少分をそのまま原告の損害と認めることはできない。そして,その損害が原告が主張するように1年間にわたって生じていたと認めるに足りる証拠はなく,上記1認定の原告作成に係る売上表(〈証拠略〉)によっても,被告の上記行為によってリプル店の売上げが減少したと認められるのは3か月程度と思われるのである。
 本件において,被告の上記不法行為と相当因果関係のある損害の範囲を確定するのは極めて困難な問題であるが,上記1認定の被告の勤務歴,原告における地位,リプル店の開店に至る経緯,その売上げの推移等,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,1か月当たり10万円の損害と見て,その3か月分に当たる30万円をもって上記因果関係のある損害と認めるのが相当である。
 そして,本件事案の性質,審理の経過,認容額等,本件に顕れた諸事情からすると,相当因果関係のある損害として原告が被告に請求し得る弁護士費用は5万円と認めるのが相当である。
5 昇給合意の有無
 被告は,平成16年2月ころ,同年4月以降の基本給が減額された際,原告との間で,同17年4月以降の基本給を43万4000円に戻す旨の昇給合意がされた旨主張し,被告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分がある。
 これに対し,原告は,これを否認しており,上記合意があったことを窺わせる合意書等の書面が作成された形跡はない。
 この点につき,甲野は,原告代表者本人尋問において,被告に対し,「1年くらいたてばリプル店の売上げが300万円になるだろうから,そうなれば元に戻す。」旨言ったと供述しているところからすると,被告が,1年程度すれば元の基本給に戻してもらえるものと期待したのも無理からぬところではあるが,そうだとしても,同16年2月ころ,被告と原告との間で同17年4月以降の基本給を43万4000円に戻す旨の合意が成立していたとまでは認め難く,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 よって,被告の反訴請求中,上記合意が成立していたことを前提とする未払給与請求は理由がない。
6 時間外給与の支払請求の可否
 上記1認定のとおり,被告は,原告のリプル店で勤務中,原則として午前10時から午後8時まで就業していたところ,被告は,1か月当たり37時間30分(1日当たり1時間30分)の時間外労働(残業)に従事し,また,少なくとも平成16年11月以降,毎月2回,原則として水曜日の夜,午後9時から最低でも2時間に及ぶ店長会議に出席していたとして,合計173万8709円の時間外給与の支払を求めている。
 しかしながら,理美容業は特殊技能を要する職業であって,リプル店のような理美容店においては,その勤務態様も,顧客がいない場合,従業員は,その時間を多少の準備作業や若年者の練習に費やすことがあると思われるが,実質的には休憩時間となることも少なくないものと思われるれるのであって,特段の事情がない限り,リプル店のような理美容業に従事する従業員の給与には多少の勤務時間の増加があったとしても,それは勤務時間に含まれているものと認められる。
 そして,上記1認定のとおり,被告は,原告の総店長であって,証拠(〈証拠略〉,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は1日当たり1ないし2時間程度の時間外労働(残業)をしていたこと,被告の基本給は,平成16年2月当時が43万4000円,同年4月当時が39万0600円であり,これは他の従業員の約1.5倍程度に当たること,被告は,原告から,上記給与のほかに店長手当として3万円が支給されていたことが認められるから,上記事情の下,原告が被告に上記基本給に加えて時間外手当(残業代)を支払っていなかったとしても,これを不当とする特段の事情があったとまで認めることはできない。
 よって,被告の反訴請求中,時間外給与の支払請求も理由がない。
7 本訴状が被告に送達された日の翌日が平成18年8月7日であることは本件記録上明らかである。

企業の方で、残業代請求などについてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士の費用やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇刑事事件借金の返済敷金返還や原状回復(事務所、オフィス、店舗)遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年7月3日金曜日

サービス残業代(残業代請求)

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

2 顧客カードと営業秘密性について
 上記1認定のとおり,被告は,平成18年3月下旬ころ,リプル店に保管されていた顧客カードを持ち出したことが認められるところ,原告は,この持出し行為は不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正競争防止法2条1項4号,不正取得行為)に当たる旨主張するので検討する。
 不正競争防止法上,上記の営業秘密として保護されるためには,その情報が〔1〕秘密として管理されていること(秘密管理性),〔2〕事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性),〔3〕公然と知られていないこと(非公知性)を要するところ,顧客カードが,理美容業上,その事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であることは明らかであり,また,上記1認定の顧客カードの記載内容等からすると,そこに記載された情報は原告の管理している範囲外では一般的に入手できない状態にあったものと認められるから,上記の有用性及び非公知性を肯認することができる。
 しかし,上記1認定の顧客カードの管理状況について見ると,リプル店において,顧客カードは,リプル店の顧客が自由にこれを見ることができるような状態に置かれてはいなかったものの,単に輸ゴムで束ねられ,カウンターの下の三段ボックスや顧客の荷物置場に保管されていたにすぎず,これに秘密とする旨の格別の表記等もされず,被告が顧客カードを持ち出した当時,これが施錠できる場所に保管されていたわけではなく,また,パソコンに入力されていた顧客情報についても,パスワードの設定がされておらず,従業員が自由に顧客情報にアクセスすることができる状態に置かれていたものと認められるのである。
 そうすると,顧客カードは,秘密に管理され,情報の漏洩防止のための客観的な管理下に置かれていたとは認め難いから,顧客カードにつき,上記の秘密管理性を認めることはできない。
3 顧客カードの持出し行為及び競業行為について
(1)顧客カードの持出し行為
 上記2のとおり,顧客カードは「営業秘密」に当たらないから,被告が顧客カードを持ち出した行為を不正競争防止法2条1項4号の「不正競争」と認めることはできないが,その有用性及び非公知性は肯認されるのであって,たとえ従業員であってもこれを原告の承諾なく持ち出して,リプル店の営業活動以外の目的で使用するのは,不法行為に当たるというべきである。
 この点,被告は,顧客カードを持ち出すに当たっては,リプル店のBから了解を得ていた旨主張し,被告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分がある。しかし,上記1認定のとおり,B及びリプル店の他の従業員は,リプル店において,被告の下でその営業に従事していたものと認められ,原告代表者の甲野に代わって,顧客カードの持出を承諾するといった権限を有していたなどとは考え難いというべきであって,他に被告の上記持出し行為につき,原告がこれを承諾していたものと認めるに足りる証拠もない。
 被告の上記主張は理由がない。
(2)競業行為
 上記2認定のとおり,被告は,平成18年3月31日,原告を退社すると,翌日以降,リプル店から約250メートル程離れたピノキオ店に勤務するようになり,リプル店において被告が担当していた顧客を主な顧客として理美容業に従事し,相応の売上げを得ていたものと認められる。
 なるほど,被告のように自らの技術等によって理美容業務に従事する者の性格からすると,退職後,その能力や経験を活かして生計を立てていくしかなく,過度の競業避止義務を課するのは職業選択の自由の観点からも問題であるから,従前勤務していた店舗を退職後その近くの店舗で稼働することについても,原則としてこれが法的に禁じられる理由はない。
 しかしながら,事業者にとって,その顧客が退職者と共に流出し,その競業行為に利用されることが無条件に許容される謂われはなく,従業員は,就業規則や内規等に定めがなくても,雇用契約に付随する義務として競業避止義務を負う場合があるというべきであって,元従業員の地位、待遇,競業に係る当該行為が事業者に及ぼす影響,行為態様,計画性等を総合考慮して,それが社会通念上不相当と認められるときは,競業避止義務違反として不法行為を構成するというべきである。
 これを本件についてみると,被告は,長年にわたって理美容業に従事してきた者であり,リプル店において,総店長として,原告の理美容業に従事していたところ,原告を退職するに当たり,予めリプル店の顧客に平成18年4月以降の日をピノキオ店において理美容を行う日として予約を受け,これをリプル店のカレンダーに記載し,また,顧客カードを原告に無断で持ち出し,短期間ではあるものの,これをピノキオ店においても利用していたのである。被告の上記一連の行為は,被告が自らの生計を立てるための行為であったとはいえ,社会通念上相当でない行為であったというべきであるから,被告の上記行為は不法行為に当たる。 

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年6月13日土曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

(5)上記のとおり,リプル店は,平成17年5月以降,被告を総店長として営業を続けていたが,その売上げは,原告作成の売上表(〈証拠略〉)によると,同年5月が188万6100円,同年6月が203万4450円,同年7月が227万6900円,同年8月が186万8800円,同年9月が169万2450円,同年10月が210万9400円,同年11月が157万0000円,同年12月が229万8950円,同18年1月が163万9500円,同年2月が178万0500円,同年3月が201万5000円と推移した。
(6)被告は,平成16年2月ころ,甲野から,原告の売上げが思わしくないので,基本給を減額せざるを得ないのでこれを了承してもらいたい旨言われた。その際,甲野は,売上げが回復すれば,基本給を元に戻す意向を有していたため,被告に対し,その旨を述べた。
 これに対し,被告は,甲野の上記申入れを了解し,基本給の減額に応じたため,被告の同年4月以降の基本給は月額39万0600円となった(なお,被告は,総店長であったため,他の店長の1.5倍程度の給与を得ていた。)。
 その後,被告の基本給は,上記の減額された状態で推移し,原告から基本給を元に戻す話はなかった。
(7)被告は,次第に原告の待遇に不満を持つようになり,いずれ独立したいと考えるようになっていた。
 こうして,被告は,遅くとも平成18年1月ころには,原告を退社することを決意し,同月20日ころ,甲野に対し,体調不良を理由に同年3月末日をもって原告を退社したい旨申入れ,甲野の了解を得た。
 被告は,原告を退社した後,ピノキオ店で理美容椅子1台を借りて理美容業に従事することになっていたため,リプル店において,被告が担当していた顧客に対し,リプル店を辞める旨の説明をし,名刺を配布したり,電話やメールで同年4月以降の日のピノキオ店の予約を受け,リプル店のカレンダーに予約内容を備忘的に記載していた。
 そして,同年3月下旬ころ,被告は,顧客の荷物置場に保管していた被告担当の顧客カード約200ないし300枚を店外に持ち出した。
 Bは,被告が顧客カードを持ち出したことを知り,これに疑問を持ったが,その際,被告に上記持ち出しを制したり,事後に,甲野に上記事情を報告することもなかった。
(8)被告は,平成18年4月1日以降,リプル店から250メートル程の所に位置するピノキオ店において,理美容椅子1台を借りて,理美容業務に従事するようになり,既にリプル店において予約を取っていた顧客にも理美容を行った。また,被告は,リプル店の顧客であった者を自家用車でピノキオ店に送迎することもあった。
 同年4月以降,ピノキオ店において被告の理美容を受けた顧客は,従前,リプル店において被告から理美容を受けていた者がほとんどであった。被告は,このようなリプル店の元顧客から,同年4月1日から同月24日までの間(営業日は合計17日),に少なくとも38万7500円を売り上げていた。)。
 原告作成の売上表(〈証拠略〉)には,被告が原告を退社した後のリプル店の売上げは,同年4月が137万8000円,同年5月が124万1500円,同年6月が131万1700円,同年7月が164万9250円,同年8月が199万2400円,同年9月が199万5600円,同年10月が201万5600円と記載されている。
(9)その後,被告は,ピノキオ店及びリプル店に出入りしている理美容用品業者であるC商事株式会社の従業員から,顧客カードは原告に返還した方がよいのではないかとの指摘を受けたため,平成18年4月下旬ころ顧客カードをリプル店に持参してBに渡し,これを原告に返還した。
(10)その後,被告は,平成19年3月ころまでピノキオ店に勤務した後,同年4月ころ,JR横浜線○○駅付近に所在する福祉施設の理美容店に移って理美容業務に従事している。

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2009年4月28日火曜日

残業代の請求

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。


第3 争点に対する判断
1 本件における事実の経過
 上記当事者間に争いがない事実と証拠(〈証拠・人証略〉,原告代表者本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)甲野は,平成元年7月26日,美容室及び理髪店の経営を目的として原告を設立し,その代表取締役に就任した。原告経営の理美容店は,シーガル店を本店として,その店舗数を増やしていった。
 こうした中,原告の従業員数も多くなったため,甲野は,総店長を設けることとし,A某(A)を総店長に充てた。平成17年ころ,原告の経営する理美容店は,リプル店を含めて5店舗となっていた。
 被告(昭和39年○月○日生)は,かねて理美容業に従事していた者であり,同8年ころ,横浜市港北区〈以下略〉所在の理美容店に勤務していたが,同年4月1日,原告に入社した。当時の被告の基本給は32万5000円であった。
 被告には妻及び子二人がある。
(2)平成13年ころ,Aは,横浜市旭区〈以下略〉において,独立して理美容業に従事することになり,原告を退社した。
 甲野は,Aに代わって,被告を総店長に充てることとし,同年ころ以降,被告が原告の総店長となった。しかし,被告は,甲野から各店舖の改善策や従業員の配置等につき意見を聞かれることはあったものの,原告の経営に関わったり,人事権を与えられるといったことはなく,原告の人事等,その経営に係る事項については,専ら甲野の判断で決定されていた。
 原告においては,同16年11月以降,毎月,理美容業務を終えた後,各店舗の店長による店長会議を開くようになっていたが,被告も,理美容業務を終えた後,午後9時ころから開かれていた店長会議に出席していた。
 なお,同16年3月当時の被告の基本給は月額43万4000円であった。
(3)甲野は,リプル店の前身であるアンサー店の経営が思わしくなかったため,何人か店長を替えてみたものの,その営業成績が上がらなかったため,店舗を廃止することも考えたが,菊名駅に近く,その立地が良かったため,店舗をリニューアルして「リプル店」としてオープンすることとし,当時,イーズ店で勤務していた被告をリプル店に移すことを計画し,被告を説得してその了解を得た。
 こうして,平成17年,原告は,被告を総店長,同じくイーズ店に勤務していたB(昭和53年○月○日生)を店長とし,他に3名の従業員を入れて,上記店舗においてリプル店を開店した(同店は「菊名店」とも呼称されていた。)。原告は,リプル店の売上げが同18年10月には300万円に達することを目標としていた。
 リプル店の営業時間は,原則として,午前10時から午後8時までであったが,この間,顧客数に応じて繁閑があり,従業員は,顧客のない時間には適宜休憩を取ったり,経験に応じて練習をしたりするなどして,待機していた。
 原告の各店舗にはタイムカードが設置されていたが,出社時にはこれに打刻されていたものの,退社時に打刻されることはなかった。
 そして,リプル店において,従業員が,午後8時を過ぎて残業をしても,これに対して残業代が支払われることはなかった。
 被告は,原則として午前10時に出勤し,午後8時に退社していたが,原則として毎週月曜日が定休日であり,月に一度は連休があった。また,被告は,同16年11月以降,理美容業務を終えた後,午後9時ころから開かれていた店長会議に出席していた(この店長会議は長いときには2時間に及ぶこともあった。)。
(4)原告は,平成5年ころまでには,各店舗において,願客の了解を得て顧客カードを作成することととし,従業員が作成した顧客カードについては,適宜,各店舗においてその管理を行うようになった。
 顧客カードの表面には,顧客が自らその氏名,住所,電話番号,メールアドレス,職業,出身地を記載する欄や毛質(自然毛の色,太さ,硬さ,弾力性,乾燥性),かぶれ及び体質について記載する欄があり,その裏面には,顧客の来店日,整髪等の内容,育毛剤使用の有無,料金,担当者等の顧客に関する情報が記載されていた(リプル店においては,顧客カード表面の毛質,かぶれ及び体質欄の記載がされることは少なく,裏面に,来店日,整髪等の内容や顧客との会話において特記すべき事柄などが多く記載されていた。)。この顧客カードの中には,「ヘア&スキャルプチェックシート」が付されているものもあり,これには「毛髪について」,「頭皮について」,「生活環境」の欄があり,毛髪について,「パサつく。」「くせ毛が気になる。」「ダメージがかなり気になる。」,「ボリュームが欲しい。」「根本から細くなっている。」等の項目が,頭皮について,「フケが気になる。」「抜け毛が気になる。」,「脂っぽい。」,「かゆみがある。」,「赤みや傷がある。」,「敏感肌。」等の項目が,生活環境について,「ストレスがある。」,「不規則な生活または食生活の乱れがある。」,「日中は外に出ていることが多い。」等の項目があり,これに顧客がチェックを入れることとされていた。
 リプル店においては,担当者が,顧客に「作っていいですか。」,「差し支えないところを書いて下さい。」といった程度の説明をして,顧客カードの作成に当たっていたが,作成された顧客カードは,輪ゴムで束ねて,カウンターの下の組立式三段ボックスに置かれていた。
 顧客カードは,リプル店の顧客が自由にこれを見ることができるような状態には置かれていなかったものの,このファイルに秘密とする旨の格別の表記等はされておらず,従前,施錠できる場所に保管するといった措置も取られていなかった。また,リプル店においては,顧客情報をいわゆるパソコンに入力していたが,パスワードが設定されていたわけでもなく,従業員は,自由に顧客情報にアクセスすることができた。
 被告は,リプル店において,顧客から理美容の予約を取る際,顧客と自らの携帯電話でメールのやり取りをして予約等を入れることが多かった。

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年3月13日金曜日

未払いの残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

(被告の反論)
(1)顧客カードの営業秘密性について
 顧客カードは,リプル店のカウンターの下の棚に無造作に置かれており,施錠されたケースに入っていたわけでもない。このカウンター内に顧客が立ち入るのを遮るものはなく,厳重に保管されていたとか,盗まれないようにしていたなどという状況にはなかった。顧客カードは,カウンターの下ではなく,顧客の鞄などの付近に輪ゴムで束ね,無造作に置かれていたにすぎない。現に,顧客の中には,自分の上着や鞄を取るためにカウンター内に立ち入る者もいた。
(2)被告の顧客カードの持出し行為について
 被告は,リプル店の店長であったBの了解を得て顧客カードを持ち出した。また,リプル店の他の従業員もこれを了解していた。原告は,被告が原告を退社後3か月間は顧客カードの持出しについて問題とすることがなかったのも,上記事情によるのである。被告の顧客カードの持出し行為には実質的な違法性がない。
 被告と原告との間で,被告がどこで次の仕事をするかについての特約はなく,被告が,自らの技術を信頼する顧客の利益を図り,顧客が来店しやすい場所で理美容の仕事をするのを非難されるいわれはない。被告に競業を避止する義務を負わせる法的根拠などない。
(3)損害
 被告は,顧客とは,顧客カードとは関係なく,連絡先を教え合っていたのであって,被告の顧客カードの持出し行為と原告の損害との間には因果関係がない。
(4)昇給合意の有無
 原告は,平成16年2月ころ,被告の基本給を減額するに当たり,被告との間で,同17年4月以降の基本給月額を,39万0600円から43万4000円に復する旨の昇給合意をしていた。
 ところが,原告は,同年4月以降も基本給を元の基本給43万4000円に戻さなかった。
 したがって,被告は,原告に対し,同年4月から同18年3月までの未払給与合計52万0800円(43万4000円と39万0600円の差額4万3400円の12か月分)の支払を求める。
(5)時間外給与請求の可否
 被告は,1日当たり1時間30分,1か月当たり37時間30分の時間外労働(残業)をし,加えて,少なくとも平成16年11月以降,毎月2回,原則として水曜日の夜,営業終了後の午後9時から最低でも2時間,店長会議に出席していた。
 被告の1時間当たりの給与額は1953円であったから,時間外給与は1時間当たり2441円(1.25倍,労基法37条1項),深夜割増給与は1時間当たり2929円(1.5倍,労基法37条3項)となるから,被告が原告に請求し得る時間外賃金・深夜割増賃金(残業代)額は下記のとおりであり,その合計額は173万8709円である。

       記

〔1〕通常の勤務日における時間外賃金
(2441円×37.5時間×17か月=155万6129円)
〔2〕月2回の店長会議に伴う時間外賃金
(2441円×2回×17か月=8万2994円)
(2929円×2回×17か月=9万9586円)

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年2月23日月曜日

残業代請求(サービス残業)

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

3 争点
(1)原告の顧客カードは,不正競争防止法2条1項4号の「営業秘密」に当たるか。
(2)被告が,上記顧客カードをリプル店から持ち出してこれを使用したことが,同号の不正取得行為に当たるか。
 また,被告が,ピノキオ店で理美容業に従事したことが,競業避止義務に違反するものとして,原告に対する不法行為を構成するか。
(3)損害額
(4)原告は,平成16年2月ころ,被告の基本給を減額するに当たり,原告との間で,同17年4月以降の基本給月額を43万4000円に復する旨合意していたか。
(5)被告の時間外給与の支払請求の可否
(原告の主張)
(1)顧客カードの営業秘密性について
 顧客カードには,顧客の氏名,住所,生年月日,電話番号,携帯電話のメールアドレス等の個人情報が多く記載されており,その裏面には,いつどのような理美容の作業を行ったか,金額はいくらだったかといった情報だけでなく,顧客のプライバシーに関わることまで記載されている。
 原告は,顧客カードの管理につき,顧客や出入りの業者等にも見られないよう厳重に管理し,従業員であっても,店外はもちろんスタッフルームへの持ち込みも禁じていた。したがって,顧客カードには秘密管理性が認められる。
 そして,顧客カードは,顧客との対応を円滑にし,また,営業活動においても利用されていたのであって,有用性も認められ(そうであるからこそ,被告も顧客カードを盗み去ったのである。),そこに記載された情報は,一般に非公知である。
(2)被告の顧客カードの持出し行為について
 被告が顧客カードを持ち出して,これを使用した行為は,不正競争防止法2条1項4号の「不正競争」に該当する。
 被告は,平成18年3月31日に原告を退社後,翌日からリプル店から約250メートルしか離れていないピノキオ店において,理美容椅子1台を借りて理美容業を開始した。その予約は,リプル店において勤務中に行っており,ピノキオ店の被告の顧客は,従前,リプル店の顧客であった者である。被告は,ピノキオ店において,リプル店から持ち出した顧客カードを利用して,顧客に電話し,顧客を自動車で迎えに行ったりしていたのであり,原告の顧客を無断でピノキオ店に移したということができる。被告は,顧客カードを無断で持ち去り,しかも,ピノキオ店に来た顧客について,来店日時及び料金等を記載していたのである。
 被告の上記行為は,不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に当たり、また,被告の競業行為は,不法行為を構成するというべきである。
 なお,被告は,顧客カードの持ち出しについては,リプル店の店長であったB(B)の了解を得ていた旨主張するが,Bは,被告から顧客カードの持出しについて話をされたことはなく,これを了解したということもない。そもそも,顧客カードは原告所有のものであるから,原告の代表取締役の甲野太郎(甲野)の了解を得る必要があるところ,甲野がこれを了解したことはない。 
(3)損害
 被告がリプル店の顧客を奪ったことにより,リプル店における売上げが減少したが,この売上げの減少は少なくとも1年間は続いた。
 被告は,平成18年4月以降,ピノキオ店において月額50万1468円の売上げを得ていたが,これは原告の1か月当たりの損害である。ただし,被告の貢献度及び顧客情報が時の経過とともに衰退すること等も考慮すると,当初の3か月は100パーセント,次の3か月は75パーセント,次の3か月は50パーセント,次の3か月は25パーセントとして損害額を算定するのが相当である。
 そうすると,原告の損害額は376万1010円となる(50万1468円×3か月×(1+0.75+0.5+0.25)=376万1010円)。
 そして,上記損害額の1割相当の弁護士費用も被告の上記不法行為と因果関係のある損害ということができるから,損害額の合計は413万7111円となる。
(4)昇給合意の有無
 原告は,売上げが減少していたため,平成16年4月以降の被告の基本給を減額することとし,被告の了解を得て減額したのであって,その際,被告に対し,1年以内に従前の基本給に戻す旨合意したことなどない。
(5)時間外給与請求の可否
 被告の,リプル店における休憩は約3ないし4時間程度であり,その実労働時間は6ないし7時間であったから,時間外労働(残業)はない。仮に時間外労働(残業)があったとしても,被告は,総店長の地位にあつたから,労働基準法(労基法)41条の適用はなく,また,被告は,他の店長の1.5倍の給与の支給を受け,かつ,店長手当として3万円の支給を受けていたから,時間外給与分も上記給与に含まれていたのである。

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2009年1月23日金曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します。 

第2 事案の概要
1 本訴は,原告が,被告に対し,「原告は,美容室及び理髪店を経営する株式会社である。被告は,原告の総店長として勤務していた者であるが,平成18年3月31日に退社するに際し,原告の営業秘密に属する情報が記載された顧客カードを無断で持ち出し,不正競争防止法2条1項4号に該当する不正競争行為をして原告の顧客を奪った。また,被告は,原告を退社する前から,被告の次の勤務先の予約を取ったり,上記のとおり,顧客カードを持ち去るなどの不正競争行為を行って,転職先の理髪店の営業のためにこれを使用した。被告の上記各行為は,不法行為を構成する。被告の上記行為により,原告の同年4月以降,1年間の売上げが減少した。原告の損害は,この間の損害金376万1010円に弁護士費用1割を加算した413万7111円である。」として,不正競争行為ないし不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づいて,損害賠償金413万7111円とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
 反訴は,被告が,原告に対し,同社が経営する理美容店に勤務していた際の未払給与及び時間外給与として合計225万9509円とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実
(1)原告は,平成元年7月26日に設立された美容室及び理髪店の経営その他これに付帯する一切の業務を目的とする株式会社である。
 被告は,原告に同8年4月1日に入社し,同18年3月31日に退社したが,当時,原告の総店長の地位にあり,同17年4月に開店した店舗である「ripl+」店(リプル店)において理髪及び美容(理美容)の業務に従事していた。
 同16年3月当時の被告の基本給は月額43万4000円であった。
(2)原告は,その経営する店舗において,顧客カードを作成し,その管理を行っているところ,その表面には顧客自ら氏名,住所,電話番号,メールアドレス,職業,出身地を記載する欄があり,その裏面には,顧客の来店日,整髪等の内容,育毛剤使用の有無,料金,担当者等の顧客に関する情報が記載されている。顧客カードの中には,「ヘア&スキャルプチェックシート」が付されているものもあり,これには顧客の毛髪について,「パサつく」「ダメージがかなり気になる」「根本から細くなっている」,「抜け毛が気になる」,「脂っぽい」,「かゆみがある」,「赤みや傷がある」,「敏感肌」等,頭髪や頭皮の状況についての情報が記載されている。
 リプル店においては,上記顧客カードをカウンターの裏に保管していた。
(3)被告は,平成18年3月下旬ころ,リプル店に保管されていた顧客カード約200ないし300枚を店外に持ち出した。
 被告は,同年4月1日以降,リプル店から250メートル程の所に位置する有限会社マイ・キャップ・ピノキオ店(ピノキオ店)において理美容業務を行うようになったが,原告を退社する前から,リプル店において,顧客からピノキオ店での理美容の予約を受け付けており,同日以降,リプル店の顧客がピノキオ店において理美容を受けることがあった。
(4)被告は,平成16年2月ころ,原告から,業績が芳しくないので減給を了承してもらいたいとの要請を受け,これに応じた。被告の同年4月以降の基本給は月額39万0600円となった。
 原告は,被告の同17年4月以降の給与を同16年3月以前の基本給額に戻さなかった(被告の給与は,同16年11月から同18年3月までの間,毎月39万0600円であった。)。
(5)被告は,原告において,原則として午前10時に出勤し,午後8時に退社していた。被告の休日は,原則として,毎週月曜日であり,月に一度は連休があった。
(6)被告は,平成16年11月以降,毎月,理美容業務を終えた後,「店長会議」と称する会議(店長会議)に出席していた。

企業の方で、残業代請求などについてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士の費用やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇刑事事件借金の返済敷金返還や原状回復(事務所、オフィス、店舗)遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。